飛影外伝 くのいち伝説 P・N 雪風
「くそ、イルボラ、てめぇ」
ジョウは黒獅子を操り、イルボラの乗るスケルトンから離れた。
「甘いぞ、ジョウ!」
イルボラは攻撃の手をやめない。バランスを崩した黒獅子にスケルトンが迫る。
「あぶない」
その危機を救ったのは鳳雷鷹だった。スケルトンと黒獅子のあいだに割り込んで黒獅
子を援護する。
「くっ、このままではこちらが不利か、撤退だ」
「イルボラ、逃がすか!」
熱くなったジョウがイルボラを追いかける。
「いけません、ジョウを止めてください」
「分かったわよ、ロミナ姫」
エルシャンクから離れる黒獅子に鳳雷鷹がついて行く。
「くそ、どこへ行きやがった」
「いるわけないでしょ、エルシャンクに帰るわよ」
暗礁宙域で二人はイルボラを見失った。
エルシャンクに帰ろうとしたところで、周りの隕石からシャーマンが出てくる。
「なっ」
「まちぶせ!?」
すっかり囲まれてしまった二人は、それでも脱出しようと試みる。が、数が違いすぎ
る。二人はだんだんと追いつめられていった。
「このままじゃやられちゃう、飛影がきてくれれば……」
「いや、来てくれたみたいだぜ」
白い影が現れた。すさまじいスピードで次々とシャーマンを倒していく。ものの数分
ですべてのシャーマンは撃破された。
「終わったみたいだな。帰るぜ」
ジョウはエルシャンクへの帰路についた。その後を鳳雷鷹がついて行く。だが、その
動きが止まった。
「どうした、レニー」
ジョウが振り返る。そして見た物は、飛影に連れ去られる鳳雷鷹だった。
「なっ!」
あまりの出来事にあっけにとられているジョウの目の前で、レニーは鳳雷鷹ごと連れ
去られた。
初めに感じたのは重力だった。
次に青い空が見えた。
「ここは」
少しくらくらする頭をはっきりさせて、今の状況を確認してみる。今居るのは鳳雷鷹
の操縦席だ。
鳳雷鷹は、草原に倒れている。だが、なぜ草原に?先ほどまで自分は宇宙空間にいた
はずだが。
考えていても始まらないと思ったレニーは鳳雷鷹を飛ばしてみた。上空から見れば、
何か分かるかもしれない。
そうして見えたのは、大きな城下町だ。だが、その城下町はシャーマンによって蹂躙
されようとしていた。
「姫様、どうかお逃げくだされ。我が国にはシャーマンに勝てる兵器はありません。
伝説がただのおとぎ話であった以上、我々には何の手段も」
年老いた大臣が涙を流しながらいった。
数百年の歴史を誇るこの国ももう終わりかと思うと、先代に申し訳がないと思ったの
だ。
「姫様、さあ」
その時、伝説は現れた。彼方より飛んできた赤い巨人がシャーマンを切り裂いたの
だ。
「見てください。伝説は実在したのです。あれこそ伝説の戦士です」
圧倒的な力で次々とシャーマンを倒していった赤い巨人は、街の広場へと着陸した。
街の人々が次々と地面にひれ伏していく。その中で姫は群衆の一番前へと歩み出た。
やがて、赤い巨人の中から一人の少女が出てくる。
すこしとまどっている少女に向かって姫言った。
「ようこそ、伝説の戦士『くのいち』よ、わたしはこのエルシャンクの王女ロミナと
申します」
「えーっと、どうも、レニー・アイです」
レニーは広い部屋の中にいた。
すぐ目の前でメイドがお茶を入れている。
ガシャン
そのメイドがコップを落とした。激しい音を立てて割れる。とたんにメイドの顔が
真っ青になった。何度も頭を下げて謝り続ける。
「いや、いいですから、このぐらい」
それでもメイドは謝り続ける。そのうち3人ほど別のメイドが来て部屋を掃除して
いった。
(何だかな)
レニーはベットに寝ころんだ。いままでこんなベットに寝ころんだことなどない。
寝ころんだまま現在の状況を確認してみる。
「いまエルシャンクは滅亡の危機に瀕しています」
この世界のロミナ姫はこう言って話を始めた。
数百年の歴史のある国、エルシャンク。今まで戦争などなかったが、隣国ブームに
よって侵略を受けた。
ブームの宰相ハザードは呪術によって大地に悪しき気を送り込み、土を人の形にして
破壊をもたらす巨人シャーマンを作り出した。
その強大な力にあらがうすべもなく、やがてこの国の宰相は姫の婚約者を人質に寝
返ったのだ。
「ちょっと待って」
レニーはロミナの話を止めた。
「その裏切った宰相ってイルボラって名前?」
「その通りですが」
「それじゃあ婚約者は?」
「ジョウと言いますが、どうしたんですか?頭を抱えて、医者を呼びましょうか?」
「いいです……」
まさかここまで似ていようとは、いや、初めにロミナ姫が出てきた時点で予想される
ことだったが。
「あなたにお願いしたいことはブームの宰相ハザードを倒してもらいたいのです。ハ
ザードさえいなくなればすべてのシャーマンは消え、我が国にも逆転のチャンスがあ
ります」
「わかったわ」
レニーは簡単に返事をした。
この世界のシャーマンは圧倒的に弱い。泥でできているからか鳳雷鷹の一撃で破壊す
ることができるのだ。それに動きも遅いので上空から狙い打ちにすれば楽勝である。
この世界にはロボットがいないので、普通の大砲や鉄砲だと勝てないだろうが、この
国の武器は意外と充実している。シャーマンさえいなくなれば逆転できるというのも
あながちウソではないだろう。
それに、この世界のことをよく知らない以上、ほかにすべき事は見つからなかった。
「ありがとうございます。今夜はゆっくりと休んでください」
そう言われて用意されたのがこの部屋だった。
飛影にさらわれて、おかしな世界にやってきて、そっくりさんがいて、肉体的にも精
神的にも疲れたレニーはすぐに眠ってしまった。
鳳雷鷹は西に向かって飛んでいる。目指すはブームの前線基地マーズ。
(いくらなんでも火星とはね、そんでもってハザードがいるなんて)
泥人形のシャーマンは移動距離に限界がある。あまりに遠いと術者の魔力が届かなく
なるらしい。エルシャンクの首都にまでシャーマンを送り込ませることのできる場所
はここ意外にはないというわけだ。
(一人で行ってこいなんて、結構きついこと言うわね。でも普通の兵士が行っても
シャーマンにはかなわないか)
「あなたが出発して3時間後に僕たちがでます。それまでにハザードを倒してくださ
い」
そう言ってレニーを見送ったのはマイクだった。むこうでは情けなく思っていたマイ
クもこちらの世界では頼もしい青年になっている。そのギャップに思わずひいてしま
うレニーだった。
「まったく、本物は何しているんだか」
もとの世界では自分は行方不明になっているのだろうか?ジョウもマイクもロミナ姫
も自分を捜しているのだろうか?
そうこう考えているうちに前線基地マーズに辿り着いた。
「さて、せいぜい暴れるとしますか」
「ハザード様、敵の巨人です。シャーマンでは歯が立ちません!」
「くそう、あれが伝説のくのいちか!ならばこちらも奥の手を出させてもらおう」
外では鳳雷鷹が暴れ回っていた。群がるシャーマンに当たるを幸いに十文字切りを放
ち続ける。
「泥シャーマンになんか負けるものですか」
こうして三十分ほどたった頃だ。シャーマンの動きに変化が出てきた。いままでまっ
すぐつっこんでくるだけだったのが、後ろに退いて一カ所に集まったのだ。
山のようになったシャーマンの頂上に一人の男が立っている。へちゃげた醜い顔の
男、ハザードだ。
「ふっふっふ、さすがは伝説のくのいちと言ったところか、だがこれまでだ!我が最
大の奥義を受けるがよい」
ハザードが手を挙げると、すべてのシャーマンが土になった。さらにお互いに混じり
合い、一つの巨大な形を作り出す。
「おおきいシャーマン!?ボキャブラリーがないわね」
全長50メートルはあろうかというシャーマンが鳳雷鷹に襲いかかる。レニーはその
攻撃を余裕でかわす。はずだった。
「速い!」
今までとは比べものにならない速さの攻撃が鳳雷鷹に炸裂する。
鳳雷鷹は地面にたたきつけられてバウンドした後、ふたたび空中に飛び上がった。
「泥だからってあそこまで質量あったらきついわね。でも空中にいれば」
「あまいわ」
巨大シャーマンが飛んだ。翼を背中にはやして、文字通り飛行したのだ。
鳳雷鷹をつかんだ巨大シャーマンはその手に力を込めて握りつぶそうとする。
「これで終わりだ!くのいち!」
「くっ、飛影!あんたのせいでこんな所に来たんだから、ちょっとは手伝ってよ!」
そう叫んだ瞬間、巨大シャーマンの手が切れた。
自由になった鳳雷鷹は少し距離をとって様子を見る。白い影が巨大シャーマンの周り
を縦横無尽に動き回っていた。
「やっときたわね、さっさとカタを付けましょ」
合体のシグナルが鳴り響き、飛影が宙に舞う。飛影と鳳雷鷹が合わさった時、巨大な
鳥、空魔が姿を現した。
「なに、合体しただと!?」
「よくもやってくれたわね、おかえしよ」
すさまじい速度で空魔が突っ込んでいく。巨大シャーマンは必死に避けようとするが
間に合わない。
空魔の突撃を受けた巨大シャーマンは、もろくも崩れ去った。
「どんな……」
どんなもんだい、と言おうとしたレニーは猛烈な眠気に襲われた。こんな時に不自然
すぎる。だが、耐えることのできなかったレニーはそのまま操縦席の中で眠りについ
てしまった。
次の日、レニーはもとの世界のエルシャンクにある資料室にいた。
話を聞くと、レニーは空魔の状態でエルシャンクに戻り、操縦席の中で寝ていたらし
い。
目が覚めたレニーは、何かに導かれるように資料室に来たのだ。
「なにか捜し物ですか?」
「ロミナ姫、ちょっとね」
レニーはくのいちと入力した。様々な物が検索される中、さらに伝説を入力する。そ
して、一つの文章が目にとまった。
「あら、これは」
「しってるの」
「ふるいふるいおとぎ話です。くのいちというのは女の忍者の事でしょう。だから少
し調べたことがあるんです」
むかしむかし、アルトシャングという国が大国ブルムの侵略を受けて危機に陥った。
ブルムの宰相である呪術師バザートはシャルマンという巨人を操り、アルトシャング
を壊滅寸前まで追い込んだ。女王ロムミナが天に祈ったとき、レイニと名乗る赤い戦
士が舞い降りた。戦士レイニはバザートを倒した後、いずこかへ旅立ちその行方は分
からない。シャルマンを操ることのできなくなったブルムはアルトシャングの反撃を
受けて滅亡、アルトシャングは栄え、レイニは伝説の戦士を意味する『くのいち』と
呼ばれて、その話は伝わっている。
「アルトシャングという国はどこにもありません。ただこの話のみがアルトシャン
グ、ブルムの存在を記しているのです。そう言えばここに描いてある絵、レニーさん
に似ていますね」
終